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04



「…だけど冴木、目指すものの途中に、ハッキリ邪魔だとわかるものがあれば、お前はどうする?」


だからこそ聞いてみたかった。


「会社を経営する上でそれが障害になるというのなら排除する。当然だ」

「まぁ、そうですよねー」


半分予測していた答えに、俺は笑った。だが冴木はそれで言葉を途切れさせなかった。


「しかし、…もしその障害が、障害ではなく、僕に利益をもたらすものであれば?話は変わってくる。今僕が見て障害であれば、将来の僕も障害と思うだろうか?僕は変わる。僕の目線は、視界は変わり、社会は変わる。だとすれば不変なんてものは有り得ない」

「…………」

「タクト、君にも未来が見えるだろう?草野俊太郎の名前が世に出れば満足なんて、そんなことはないはずだ。そうでもいいけれど、君がそうだとは僕には思えないね」

「……なんで、社長はわかんの?」

冴木は理知的な瞳を細めて、楽しげに微笑った。


「僕もそうだからだ」


なるほど。
これだけ自信を持って言うのだから、きっと壮大な夢に違いない。


「じゃあさ、」


俺はもう一つだけ、馬鹿げた質問をしてみたかった。本音を言うなら、冴木の返事が聞きたかった。それだけなんだろう。


「じゃあ、誰かのために生きるっていうのは、今の俺にとって障害になるかな?」


今度こそ冴木は笑った。声を出して。愉快そうに。


「はははっ!本当にどうしたんだい?そういうのは僕のジャンルじゃない。君の庭だろう。いつものように言葉遊びを楽しみたいのなら、…いいだろう。僕が教えるよ」


ふふふ、と挑発するかのように笑われて、俺はそこまで馬鹿げていたかと、少々戸惑った。俺っていったい、どんな人間なんだ。


「いいかい?タクト。君が言う“誰かのために生きる”っていうのは、
“誰かのために生きる自分のために生きる”っていうことだ。
誰かのために生きたって、それが君のためになる。生きるっていうのはそういうことだよ。
…意味は在るものだ」


「……っ…」


「タクト、僕は結果を求める人間だ。結果のためなら、どんな努力だってする。どんな手段だってね。
そうやって今の会社があるけれど、しかしそのために傷付けた人間も居ることを、僕はけして忘れてはいないんだ」


「………冴木」


「君の感情には意味が在る物だと思うし、僕たちが館で出会ったことには少なからず意味が在ると、僕は確信している。…いいじゃないか。世界にとって意味がなくとも、自分にとって意味があれば」


右手が震えていたのは、きっと冴木の方だった。
俺はたまらず、その震えを治めるかのように冴木を抱き締めた。白い包帯を巻かれた冴木の華奢な身体は、俺の腕にスッポリおさまる。


「……僕には、その結果が見えているよ」


耳元で聞こえた声は、やけに穏やかで柔らかくて、俺は腕の中の冴木に力を込める。


「それからね、知っていたかい?タクト」
「……なに」
「障害の反対は…、」





“自由なんだ”






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